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2011年4月29日掲載
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今日は、趣味で能面づくりに励んでおられる田中勝冶さんに会うため、岩田町の自宅を訪問した。樹齢五百年のクスノキの大木が目を奪う。南向きのガラス窓からやわらかな光がさしこむ部屋で、お話をうかがった。
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「わぁ、すごい!能面がずらり」
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田中さんの作品の一部 & 説明する田中さん |
“趣味”と聞いて来ましたが、能面の数々や道具揃えを見てびっくり!素人目の私にも、本格的な作業であることがわかります。
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彩色道具 & 作業場所 |
田中勝治さん(71歳)は、幽玄の世界に魅かれ、能面づくりを始めて13年。
面打師、堀安右衛門の孫弟子との自負をもって、大阪市内の教室にも通います。 |
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教室とはいえ、手取り足取り教えてくれません。「技術は見て覚えよ」の昔ながらの修行だと笑います。
田中さんが作った能面は、今までに50面ほど。ほとんど人にあげてしまったそうです。「いいやつから、なくなっていきます」と、屈託がありません。
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顔は左右が違うもの
田中さんによれば、能面を打つときは、左半分と右半分を変えるといいます。観客に見せる角度で、陰と陽の表情の変化を出すためだそうです。そこまで計算された『能』の奥深さを知らされました。
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左右変化がわかる女面『近江女』&
打ちかけの面(木曽ヒノキの柾目一枚もの) |
何回も塗り重ね
面を打ったあと、かき殻を粉にした胡粉(ごふん)という白い顔料を塗り、その上に日本古来の岩絵具(いわえのぐ)で彩色します。
師から、「汚さなあかん、きれいにしたらあかん」と、よく言われるそうです。“100回塗ってその色にする”のが理想とか。能の舞台で、表情に深みを出すために欠かせない作業です。
塗り方一つで鼻が高くなり、線の一本で目元パッチリになるとのこと。「女性の化粧法を見習わないかんな〜」とは、田中さんの冗談です。
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能面は、翁(おきな)面・尉(じょう)面・女面・男面・鬼神面・怨霊(おんりょう)面の6種に大別でき、面の種類は260以上とか。そのうちポピュラーなのは60種です。
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完成のない世界と悟る
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福知山の堀先生をたずね、先生の作品と見比べたところ、ぜんぜん深みが違うことを知らされたといいます。
堀先生は、「ええ面を見せてもらうことや!」と、おっしゃったそうです。巨匠の堀先生にして、いいお手本を探して完成をめざす姿勢に、大いに感じるものがありました。
「おっ、これは男前ですね〜」の私の感想に、「そうや!若男という面や」の返事。したりがおの私の顔をみて、「素人好みの面やで」と、釘をさされてしまいました。
一方、十六中尉の面は、悲哀をかこつ公達のようです。
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男面『若男』 & 尉『十六中尉』 |
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怨霊面『泥眼』 & 女面『神功皇后』 |
この険しい面は、怨霊系の『泥眼(でいがん)』です。目は金色に塗られ、現実の女性ではないことを示します。
男への恨みつらみが募った表情でしょうか。能舞台できらりと光る目は、いっそう凄味を増すように思えます。
それに引きかえ、額に装丁され飾られていた『神功(じんぐう)皇后』の面は、穏やかながら、きりっとした雰囲気を漂わせています。
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光の当たり方で、表情が変化する様子を見ることができました。影を変化させながら立体的に面を打つという話が、少し理解できたようです。
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鬼神面『天狗(てんぐ)』 & 尉面『笑尉(わらいじょう)』
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日々、修行
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田中さんは、こつこつと制作を続ける中、満足のいった作品を奉納しています。今までに、地元、石田(いわた)神社と、枚岡神社に奉納しました。これからも精進を続けていきたいと、力強く語ってくださいました。
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女面『小面(こおもて)』と怨霊面『般若(はんにゃ)』 |
由緒ある石田(いわた)神社
(大森邦彦宮司) |
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取材を終えて
お点前の風景 &
田中さんが大事にする掛け軸二幅 |
田中勝治さんは、『東大阪南ライオンズクラブ』会長、『岩田西校区福祉委員会』委員長、若江岩田駅前リージョンセンターの『くすのきプラザ運営委員会』顧問をされ、社会活動に大変お忙しい身です。その合間に能面を打つ作業は、気分転換とも、心の栄養ともなっているのでしょうか。田中さんのもう一つの素顔は、『釈顕慈(しゃく・けんじ)』という法名をもちます。『無量義経』に出会ってから、一般的に認められていないこの経典を少しでも広めたいと念じています。『無量義経』の世界を語れるところはどこでも行きたいと考えています。田中さんにあっては、人のための社会活動と、能面打ちと、無量義経とは不離一体のものかもしれません。
レポート:岡部&楢 |
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