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ふるさと東大阪2014年9月13日掲載





手前は八尾小阪合町の伊藤敏子さん。「紙を石からはずすときがうれしいです」

 

 
拓本(たくほん)と聞けば、年配の方は、たいていの人はご覧になったことがあるは
ずです。でも、若い人になると、実物を見せないと伝わらないようです。日本の伝統
文化の継承が望まれます。
 今回は、その拓本の技術を長年磨き続ける、
中河内拓本クラブ(田中絹子会長)を訪
問。その活動の様子を見せてもらいました。

                 

                  動画 中河内拓本クラブの活動 ←ジャンプ

 右の建物は、大阪商業大学のキャンパス内にある谷岡記念館。その一室が「河内の郷土文化サークルセンター」となっています。中河内拓本クラブ(以降、拓本クラブ)は、その一員として、ここに活動の拠点を置いています。
大商大谷岡記念館 & 活動の拠点

石碑求めて西に東に


クラブのみなさん 中央が田中絹子会長 & お茶タイム
 8月5日は拓本クラブの定例会でした。この日の参加者は7名。黙々と作業をされていました。途中のお茶の時間にみなさんにお話を伺いました。活動歴の長い人も多く、次々におもしろい体験談が飛び出します。
 拓本クラブでは、みんなでまとまって行く場合があります。西高野街道(堺から高野山女人堂まで)里程石の拓本採りもその一つ。まず、探し出すことから始めますが、のちに移動させられているものもあって、相当苦労されたようです。東大阪での思い出といえば、今米にある中甚兵衛記念碑の拓本採り。足場を組んでの作業でした。下の人が小さく見え、とても怖かったそうです。
※里程石  &  中甚兵衛記念碑

 高野山では、拓本作業の最中に、元巨人軍監督の長嶋さんから声をかけられたなど、エピソードを話すみなさんは終始笑顔でした。

拓本にもいろいろ


 拓本クラブでは、こうして野外で採ってきたものを、表装(ひょうそう)して完成させています。 

  ※表装=書画の保存と鑑賞のために布・紙などで縁どり、裏打ちをして掛軸・額や屛風(びようぶ)・
        襖(ふすま)などに仕立てること。

 ところで、拓本を採るには大きく分けて二つの方法があると知りました。湿拓つたく)乾拓(かんたく)です。普通は、特殊な油墨(あぶらずみ)を使う湿拓です。濡らしてはいけないものなどは乾拓にします。固形の釣鐘墨(つりがねずみ)で上からなでます。子どものころ、コインに紙をかぶせ、鉛筆の芯でかたどりしたのと同じ原理です。
上本町在住の梅田茂さん 「どこでも自転車で出かけます」

若江西新町在住の峰本順吉さん 「パソコンで場所を調べます」
 また、石碑の字の彫り方にも二つあります。陰刻(いんこく)陽刻(ようこく)です。陰刻は字の部分を彫り下げ、陽刻は字の部分を残してまわりを彫り下げます。拓本を採る際は、その違いに対応する技術が必要です。そこで、拓本を採る様子を見せてもらうようお願いしました。


採拓を実演してもらう


 8月18日、朝から厳しい日射しのもと、小阪の公園で拓本採りの実際を見せてもらうことが出来ました。始めてから二年目の仁井栄(にいえ博子さんを、ベテラン3人が補佐する形で作業が進みます。
 目の前で拓本が出来上がっていく様子を見せてもらうのは新鮮な体験です。

仁井榮博子さん 「拓本は一年とすこしです」
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            <動画>中河内拓本クラブの活動
 採拓は、碑の状態やその日の天気などに左右される作業で、しかも、迅速におこなわなければなりません。墨の濃淡やタンポのあて方で拓本の出来具合が違ってきます。同じ碑でも、人によって、条件によって、まったく違う作品になります。表装を含めた芸術活動であることがわかりました。


会長さんのすごい仕事

アンコール・ワット拓本展 東大阪市民美術センター 2014年5月10日

田中絹子会長
 会長の田中絹子さんは、福井県生まれで、結婚を機に大阪へ。拓本に魅せられたのは30数年前。小阪の税務署を会場にして、府の老人大学の拓本展がありました。そこで出会った拓本の先生が、「東大阪にも教室を開きましょう」と言ってくださいました。それが中河内拓本クラブの誕生につながりました。
 田中会長は、控え目な方ですが、あっとおどろく仕事をされてきたことを東大阪市民美術センターの展覧会で知りました。
 カンボジアの世界遺産となっているアンコール・ワット。その回廊にある浮き彫りを採拓されたのです。
 今から20年前、拓本の第一人者である
道浦摂陵さんを中心に、アンコール・ワットの拓本計画が立てられました。当時はまだ内戦終了直後。カンボジア政府の許可が下りたとはいえ、危険にかわりはありません。

偉大な王の歴史回廊 将軍ナラパティンドラヴァルマン 第一回廊南面
 
 下見のため、道浦先生と田中さん、それに加えて地形に詳しい元飛行機操縦士の三人で戦禍の残る現地に入りました。試しに拓本を採っていると、現地の人々や子どもたちが協力してくれたそうです。



       天国と地獄 ヤーマ天(閻魔王) 第一回廊南面
 帰国後、道浦先生を団長に、アンコール・ワット拓本保存会を立ち上げます。以降、10年間で四次の採拓を実施しました。田中さんは、浮き彫りの繊細さと表情の美しさに魅せられたといいます。
 この事業は、ふたたびおこなわれることはないでしょう。今となって、この拓本群は
美術史や歴史の上で、貴重な世界的価値があります。今は、大阪市立美術館に寄託保管され、展覧会には貸し出されます。5月の東大阪市民美術センターでの展覧会もその一環でした。
 当地では見極めができない細かな描写も、拓本では鮮明に見ることができます。写真撮影でもできない技だと実感しました。
         


          2014秋 中河内拓本展 日時: 11月12日(水)~11月16日(日)
                                 10:00~17:00  最終日は15:00まで   
                            場所:東大阪市民美術センターにて


        取材を終えて

 今回、中河内拓本クラブのみなさんとお会いでき、採拓の実際や表現としての拓本の豊かさを知ることができました。漠然としか知らなかった世界が少し見えた気がします。また、優れた拓本の技術が、美術史や歴史の研究にも貢献することを知りました。
 拓本クラブのみなさん、ますますお元気で拓本採りにご活躍ください。ありがとうございました。
             ルポ:楢よしき

                   
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