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2020年10月28日掲載 |
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犯罪を犯してしまった少年、保護する大人がいない少年たちを自立させ
る活動を続ける団体があります。その団体の代表を務める野田詠氏牧師
を訪ね、「私たち市民は、そこから何を学ぶことができるか」を考えてみる
ことにしました。
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アドラムの洞窟
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瓢箪山駅から商店街を北へ
10分ほど。商店街の一角に
プロテスタント系のアドラムキ
リスト教会があります。アドラ
ムとは旧約聖書に出てくる洞
窟の名前。ダビデ王が迫害か
ら逃れてきたこの洞窟で、孤
独な境遇から一転して多くの
仲間を得たという話に由来し
ます。 |
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この教会の牧師を務めるの
が※野田詠氏(のだ・えいじ)さん
です。野田さんにはもう一つ
の顔があります。それは更生
支援の団体の代表です。犯罪
を犯した未成年者が少年鑑別
所や少年院を出たあと、行く当
てがない者や、児童養護施設
を退所して居場所がない少年
がいます。その少年たちを預か
り、スタッフたちと更生自立を
援助しています。
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※特定非営利活動法人チェンジングライフ理事長、アドラムキリスト教会牧師
法務省・播磨学園教誨師、明石市更生支援ネットワーク会議委員、明石市再
犯防止条例検討委員、NPO法人セカンドチャンス!監事、一般社団法人ティー
ンチャレンジジャパン理事 |
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更生支援の団体の名は、NP
O法人チェンジング・ライフ。
野田さんが3年前に法人格
をもつ団体として設立。2つの
施設を運営しています。
1つはチェンジングホーム。自
立準備のためワンルームを提
供します。もう1つは、自立援
助ホーム「アシュレー」。一戸
建てで共同生活をしています。
野田さんはスタッフと交代で
アシュレーに寝泊りし、少年た
ちの世話を焼き、相談に乗りま
す。学校の三者懇談に代理で
出席したりと、親代わりの毎日
です。
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ある日の夕食メニュー |
野田さんらの支援の仕事は
これで終わりません。青年が
施設を卒業し、部屋を借りて
自立していても、まだまだ不安
定な場合があります。彼らを
訪問して声をかけて回ります。
時には、「起きてるか?初出
勤の日やで」と声をかけたりし
ます。生活や仕事の話を聞く
「お茶飲みにケーション」もア
フターケアの大切な活動です。
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献身的な活動を続ける野田
さんの活動の原動力はもちろ
ん信仰心ですが、さらにその
上に少年たちへの深い共感
と愛情があります。
青少年に寄せる想いは野田
さん自身が少年期・青年期を
過ごす中で培われました。
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②自らの体験が活動の原点
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野田さんが書かれた「半生
記」には、少年から非行に走
り、ついには少年院に収監さ
れるようすが赤裸々に語られ
ます。男3人兄弟の一番下に
生れ、両親は3歳の時に離婚。
シングルマザーで育てられ
ます。小学3年のとき池島小
に転校。その時のあいさつが
「俺は今日からこの学校のス
ーパースターや」と、精一杯
突っ張っていました。
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教室 イメージ |
しだいに家の金を持ち出し
たり万引きしたりと非行が
始まります。中学では勉強
についていけず、「どうせ高
校にも行けそうにない」と、
将来の夢が持てません。友
達がタバコを吸うことや、バ
イクを盗んで暴走する行為
を「かっこいい」とあこがれを
持ちます。
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暴走行為 長野県警ホームページより |
ついに自分自身が暴走族に
入り一緒に行動するようにな
ります。野田さんは、当時の
心境を、「自分の存在が大き
くなったように感じていた」と
振り返ります。仲間を求める
心も強く作用したようです。
統率力のある野田さんはリ
ーダー格となり、何度か補導
されたのち、ついに少年院に
収監されてしまいます。 |
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塩狩峠(北海道上川郡) & 著書 |
その少年院送りの裁判の中で、母親が裁判官に訴え
た言葉が、「私を代わりに刑務所に入れてください」だっ
たのです。それまでの母親への不平不満のトラウマが
、氷が解けて無くなるような感じがしたと言います。
野田さんはさらに少年院で貴重な出会いをします。親
しくなった教官から三浦綾子の「塩狩峠」の本を貸しても
らいます。信仰と自己犠牲をテーマにした名作です。
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アドラムキリスト教会の聖書
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ある時、離婚した父と次兄が
面会にきました。次兄の手に
は長兄から託された「聖書」が
ありました。肉親の愛情を感じ
内省を深める野田さん。幼い
姪の写真を見せてもらい、「俺
もがんばらないかん」と、将来
への希望が膨らんできました。
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生駒聖書学院 |
出所の日は母と次兄が出
迎えてくれました。野田さん
は間もなく、生駒聖書学院
に入学します。ここで大事に
されながら学びを続け、牧師
の道へ進むことに。
卒業式には、末期がんを
患った父が顔を出してくれま
した。
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アドラムキリスト教会の額 |
自分の半生を振り返り、自
分を支えてくれる大きな愛と
周りの人々からの愛を感じる
ことができました。過ちを赦
し、立ち直りを待ち見守り続
けてくれた人々。今度は自分
がその立場に立とうと決心し
たのが、野田さんの活動の
原点です。
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自立準備のための部屋 |
現在、子どもの7人に1人、または6人に1人が貧困であると
の調査があります。いずれにしても高い数字です。
野田さんは、子どもの貧困には、経済的な貧困だけでなく、
親や頼れる大人が周りにいないという心の貧困が広がってい
ると言います。根本的には、非行の温床ともいえる劣悪な環境
を何とかしないといけません。しかし、目の前の居場所のない
少年たちに救いの手をさしのべることは急を要します。 |
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少年たちは、それぞれ生
育も違い、個性も違います。
更生には個々の少年の立
場に立った「更生プログラム」
が欠かせません。一人一人
に寄り添い支える能力のある
スタッフが必要です。
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西大門長老教会(合同)から派遣された
リー・ヒョヌ宣教師 |
幸い、野田さんには、と
もに活動する心強いスタッ
フがいます。その中の一人、
韓国の教会から日本に派
遣されたリー・ヒョヌさんに
聞きました。
若いころ京都教育大で留
学生として学び、野田さん
とも旧知の間柄です。リーさ
んは、「韓国にも同じ問題は
あるが、日本人の恩人もい
るし、大学で育ててもらった
ので、恩ある日本でずっと活
動したい」と語ります。野田
さんにとっても少年たちにと
っても心強い存在です。
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野田さんが更生支援に力を
入れれば入れるほど、社会
環境の課題も見えて来ます。
非行はもちろん許されませ
んが、少年たちが置かれてい
る環境には、貧困だけでなく
虐待、育児放棄、過度な競争
など、心と体の発達を阻む現
状があります。野田さんは更
生支援活動だけでなく、そも
そも少年非行を未然に防ぐ活
動にも関わっています。
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ある学校での教育研修会 |
学校での研修や子育ての
講演会などで、自らの体験を
踏まえ、教育・子育ての大切
さを訴えます。親が自分の子
どもだけに関心を寄せるので
なく、子どもたちを育てるた
め、親や先生が力を合わせる
必要があることを訴えます。
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野田さんを取材させていた
だいて、わが身を振り返りま
した。「野田さんは立派だ」
と、他人事のように紹介して
も、野田さんは喜ばないだろ
うと感じます。われわれ大人
たちが、次代を担う子どもた
ちの置かれている困難な現
状に目をつむらず、子どもた
ちを守る輪を地域で広げるこ
とが大事だと気づかせてくれ
ました。 |
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取材:村上 楢
写真提供:野田詠氏さん
編集:楢 校正:駒 SE:クニヒコ
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