2018年11月29日掲載
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弓削祥子作 「丸ねずみ」 黄楊(つげ)・ヘゴ・漆 最長部3cm |
根付(ねつけ)って何?という疑問からまず入りたいと思います。昔の人が携帯の薬入れである印籠(いんろう)や煙草(たばこ)入れなどを持ちあるく時、ひもにつるしそのはしを帯などに留めるものが根付です。単なる実用品だった根付は、意匠を凝らした粋な遊びへと発展します。360度どこから見られてもいいように作られ、一分のすきもない作品は、「手のひらの上の小宇宙」「手のひらの中の芸術」と評すことも。江戸期から近代までを“古根付”、昭和以降は“現代根付”とされます。 |
ウィキペデイアより←クリック |
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その現代根付作家が
東大阪市におられまし
た。紹介いただいたの
は、書家の髙木誠子さ
ん。以前、このコーナ
ーに出ていただた方で
す。鳩まめ関係者と、
瓢箪山にあるアトリエ
を訪問しました。 |
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出迎えていただいた
のは国際根付彫刻会
会員弓削祥子(ゆげ・さ
ちこ)さん。マンションの
一室をアトリエにされ
ています。
弓削さんは5年前に
東大阪のこの地に引っ
越してこられました。 |
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弓削祥子さんの作品
お断り: 本からの写真のため色調等実物と異なります。 |
「晩夏」 黄楊(つげ)・漆(うるし) 最長部4.7cm 作品解説←クリック |
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写真資料:・京都清宗根付館 根付アート木下宗昭コレクション目録 Ⅰ~Ⅵ
・International Netsuke Sociery Journal
・高島屋 現代根付彫刻展目録 |
「西瓜」 黄楊 最長部4cm |
見ておわかりのように、弓削さん
の作品は、実物かと見まがうばか
りの精緻なつくりです。この小さな
対象にどうしてこれだけの集中力
を込められるのでしょうか?
私たちにとっては気の遠くなるよ
うな作業。弓削さんは、その昔、根
付の収集家関戸健吾氏から作家
森田藻己氏の「柘榴」など4つの作
品を見せてもらいました。そのとき、
作品に圧倒されたと言います。そこ
が原点となって森田氏の提唱する
“極小のスーパーリアリズム”に共
鳴し、自らもスーパーリアリズムを
追求する道に進みました。
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「茄子」 黄楊・漆 最長部4.5cm |
「どんぐり」 黄楊・漆 最長部3.3cm |
「大根」 黄楊・漆 最長部5.6cm |
また、弓削さんの作品には漆(うるし)
を使ったものが多くあります。その理
由は、弓削さんがもともと漆工芸をや
っておられたからです。特に色漆の扱
い方にはこだわりがあります。漆が乾
燥すれば縮む性質を利用し、唐辛子
のしわの肌あいを表現したり、特殊な
溶剤を使って茄子のへたや大根の首
の部分のぼかしを表現したりしていま
す。彫刻と漆の二つ技術がみごとに
統一されています。
では、本格的に弓削さんの作品や
人となりを紹介していきます。 |
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根付の世界で知られた人
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「貝三種」 黄楊 最長部4.6cm |
急逝された故高円宮憲仁(たかまどのみや・のり
ひと)殿下が、根付の熱烈な収集家だったこと
は勉強不足のため初耳です。
数々の根付は、高円宮家所蔵のコレクショ
ンとして保管され、今も根付展として各地の美
術館で公開されています。
さてその所蔵品の中に、弓削忠仙(ただひさ)
作として弓削さんの作品が含まれていると知り
ました。弓削さんの並々ならぬ実力を示してい
ます。 |
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「非時香果」 黄楊 最長4cm 拡大可 |
そんなすごい作品をたくさん見せてい
ただき紹介しようと思っていました。
でも、手元にはまったくと言っていい
ほど残っていません。弓削さんが最初
に見せてくださった「丸ねずみ」の作品
も、次の作品を制作するための見本と
して、所有者の知人から借りていると
のこと。もともと、弓削さんが寡作な作
家であるためと、作品が京都清宗(せい
しゅう)根付館、佐川美術館などに所蔵
されたり、海外へ渡っていたりするから
のようです。
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“厄除け”(ニンニクと柊の葉)象牙(ぞうげ) 最長部3.7cm |
弓削さんの作品が載る多くの本を前
にして、ご本人のことを聞かせてもらい
ました。
生まれは岐阜県。育ったのは大阪府
城東区。刀剣や刃物が好きで大阪城に
よく通ったそうです。学生時代には版画
に興味を持ちました。あるとき、大阪市
立美術館で、弁慶が山伏に身をやつし
たとき背負っていたとされる“笈(おい)”
を見ました。その朱の漆の美しさに魅了
されたといいます。これがきっかけで、
漆工芸の道を模索しはじめました。
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「こんにちは」 黄楊・ヘゴ・漆 最長4.5cm 拡大可 |
しかし、24歳のときからお父さんお
母さんを介護する生活に一変します。
父母のためには温暖な地が良いとの
判断で、三重県志摩市に住居を移しま
す。ここから、長年にわたる介護生活
がはじまりました。この厳しい生活の中
で弓削さんを支えたのが伊勢根付との
出会いです。落花生とそっくりの根付に
心を動かされました。
二人を介護しながら、根付を彫る時
間だけが自分の時間と、寝る間を惜し
んで没頭しました。この間、いままでに
培ってきた漆の技術も生かし、秀作を
世に出します。
こうして、現代根付作家としての地歩
を築いていきました。 |
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「浜辺」 黄楊・あこや貝・マンモス・漆 最長部4.6cm |
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志摩市に移り介護生活を始めてから
30年後に母親が亡くなり、46年後に
は父親が亡くなりました。その時の弓削
さんの心情をおしはかるのは難しいこと
です。父母を見送った弓削さんは、志
摩市の家をたたみ、5年前に育った地の
大阪に戻ってこられました。選ばれたの
はここ東大阪市の瓢箪山。私たちにとっ
てはうれしいことです。
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瓢箪山のアトリエ拝見!
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髙木さんと鳩まめ関係者に説明する弓削さん |
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「なかなか創作が進まなくて・・・」
と語る弓削さんですが、アトリエは創
作に万全の用意ができている感じ。
黄楊の木は、たまたま手に入れる
ことが出来た伊勢の朝熊山(あさまやま)
で採れたもの。「固くてねばりがある
貴重品です」と説明されます。
そのほか、驚くほど多くの材料が収
納されていました。弓削さんはそれら
の材料をひじょうに大切にされている
と感じました。
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中でも驚かされたのが彫刻刀の数々。
制作の命ともいえる道具は、全部自作
で自ら削って磨きあげます。弓削さん
が30歳代に、欄間(らんま)彫刻の
人と一緒に仕事する機会がありました。
その期間、刃の研ぎ方、砥石の使い
方などの本格的な技術を習得しました。
富山県井波(いなみ)の彫刻や刃物とも
出会いました。これが自分の大切な財
産になっていると明かされます。
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彫刻刀の一部 |
制作中のもの |
彫る木は大きくても5センチほど。拡
大レンズを使いながらの作業です。
どれだけ細かい神経を使わねばなら
ないのか、素人目にも伝わってきます。
「手のひらの上の小宇宙」という形容が
わかる気がします。最近、若い人の中
にも根付に興味をもつ人が増えていま
す。ストラップに親しむ延長なのかも知
れません。しかし実は、ストラップを付
けるのは日本で誕生した日本独特の
風習です。そのルーツは財布などに付
けられていた“ぶらり”という根付の一
種でした。日本の伝統工芸が現代の生
活にも息づいていたのです。
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制作中の「丸ねずみ」の根付 |
弓削さんは、根付という伝統工芸を引
き継ぐためばかりでなく、趣味としても
広めてゆきたいと考えておられます。現
在、近鉄文化センター阿倍野でカルチャ
ースクールの講師をされています。瓢箪
山でも希望者には講習を予定されてい
ます。ひょっとしてここから、将来の新し
いブランド“河内根付”が誕生するかも
知れません。
お話しを伺ううちに弓削さんが「じゃあ
実際に彫って見ましょう」と、制作の様子
を見せてくださいました。ミリの何分の一
かの作業を息を潜めて見つめます。
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取材はこの辺でと、お礼を述べてアトリ
エを出たところ、外はすっかり夜の気配。
ずい分長い時間お邪魔してしまいました。
弓削祥子さんという著名な現代根付作
家が東大阪にやってこられたことを、皆
さんに知らせることのできる高揚感。一方
で、上手く伝えられるかなとの不安感。そ
の両方を感じつつ帰路につきました。
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ユーチューブ 現代根付作家 弓削祥子
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協力:髙木誠子 レポ: R・山口 M・織田 楢よしき 校正:駒 |
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