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奈良時代の天皇から一般の人びとまでの歌を集めた万葉集。 これに歌われた植物を万葉植物と呼んでいます。
鑑賞用から実用的なもの、現在では雑草とされるものまで様々。 私たちが住む東大阪でも見られる万葉植物を順にご紹介します。 花の名のひらがなは万葉名、カタカナは現代名です。 |
<レポート:酒野>
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ねむ・ねぶ(合歓木) ネムノキ (マメ科)
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羽状複葉のようす |
合歓木(ねむ)は、マメ科の落葉高木で、7~9mにもなります。東北地方から九州までの山野に自生。
葉は陽があたると開き、夜になると閉じあわされて眠ったように見えます。ねむの名はここからきているようです。 |
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夏に、昔のほお紅の刷毛(はけ)※に例えられる美しい花が咲きます。先が紅色で下が白い、糸のようなおしべが集まって花となります。花弁は目立ちません。夏の初めから八月下旬まで咲いています。高木にたくさんの花が咲いている様はとても美しいものです。
※今の刷毛は濃い色の毛が多いですが、昔は白い毛を使っていました。先が紅に染まって、ねむの花のようでした。 |
ネムノキの花 & 拡大 |
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合歓木(ねむ)を詠みこんだ二首
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右の歌は、紀女郎(きのいらつめ)から大伴家持(おおとものやかもち)に送った戯歌(ざれうた)だといわれています。
昼間は花が咲いて、夜になると恋い慕いながら眠る“ねむ”の花を、私一人で見るのでしょうか。花の枝を贈りますから、あなたもどうぞ見てください。
と、うたいます。これに対して・・・。 |
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家持は、左の歌を送ります。
あなたが形見として贈って下さった“ねむ”は、花だけ咲いて実はならないのではないでしょうか。
こういえばどう返すだろうと、大人の言葉あそびやかけひきのおもしろさが感じられます。
余談ですが、二人はねむの花も、夜は閉じて眠ると思い込んでいるようです。でも実際は、花は夜に開き陽があたるとしぼみ始めるのです。 |
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やっぱりマメの仲間!
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ねむの豆 |
花のあとにはサヤエンドウを細長くしたような実ができます。このとき、毎度ながら、ねむはマメの仲間だったんだと納得します。
いかにもかよわい雰囲気のねむですが、薬用・食用・香料にも利用され、土砂崩れなどの崩壊地にも強く育つそうです。
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ここでもう一首、あまり陽の目をみない歌を紹介します。
吾妹子を 聞き都賀野辺のしなひ合歓木
吾は隠び得ず 間無くし思へば
第十一巻・二七五二
都賀野のあたりの、ふっくらとしたねむの木。私は絶え間なく恋しく思っているので、人に隠すことができない。 と、うたいます。 |
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ふっくらと茂って花をいっぱいつけた合歓の木は、夢のような美しさですね。幸せな恋心を例えるのにふさわしいと思います。
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最後に、松尾芭蕉の句を紹介して終わります。奥の細道の最北の名勝でうたった一句です。
象潟の雨に濡れて咲いている“ねむ”の花は、傾城の美女といわれた西施が目を閉じて眠っているようだ。
雨の日のねむの花は、一層、憂いを含んで見えるようです。 |
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